倭羊の回し蹴り

この国を憂う。映画・読書ノート、徒然なるままに。

『中国が隠し続けるチベットの真実』ペマ・ギャルポ著

おそらくこれを読んだら夜うなされるかもしれない。何年にも渡る中国人によるチベット人への容赦なき拷問オンパレード。世界はなぜこの非道に目をそむけ続けてきたのか?!

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1.おすすめ度 ★★★★★満点

2.本書を読んだ目的

マイケル・ダナムの『中国はいかにチベットを侵略したか』を読んで、チベットの被侵略過程に関心をもった。そして、中国がチベットを侵略した本当の理由を知りたいと思った。

3.本の構成

著 者ペマ・ギャルポ

出版日2008年6月1日 第1刷発行

出版社:株式会社 扶桑社

ページ数:207頁
    
目 次
序 章 北京オリンピックチベット騒乱
第1章 チベット問題とはなにか
第2章 ダライ・ラマー転生活仏というシステム
第3章 中国はなぜチベットを欲しがるのか


概 要
2008年8月の北京オリンピックとそれに先立って発生したラサでの暴動。著者はこの暴動の背景を詳細に明らかにすると同時に、そもそもチベット問題とは何かを歴史を振り返り説明する。21世紀になり、チベット問題が風化していく中、そもそもなぜ中国が国際社会を敵に回してもチベットを欲したのかを最終章で理解できる。

 

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        Monika NeumannによるPixabayからの画像 



4.感想

ものすごい本。チベット人がこれでもかこれでもかと中国人に蹂躙される記述があり、非常に重たい本。

①2008年3月のラサ暴動にたいする振り返り

北京オリンピックが2008年8月に行われたが、その5か月前に発生したラサの暴動が詳細に知ることができる。平和的に行われていたデモが血みどろの流血に変わったのは、中国政府のひどい弾圧があったから。

これを読むと、狡猾な中国政府に、またもやチベット人は、罠にはめられた感さえある。

日本では昔から中国政府よりの報道しかなされないのでいつもウソばかり信じ込まされてきたが(もしくは、少数民族が迫害されているだろうが、どれぐらいの深刻さなのかが伝わらなかった)、1950年のチベット侵攻から50年以上経った2008年の段階でもチベット人の圧政にたいする不満はつづいているのだとしみじみ感じる。


➁胸を引き裂くソナム・ドルカの証言

『中国はいかにチベットを侵略したか』(マイケル・ダナム著)も拷問の描写はすごかったが、本書はさらに踏み込んで、中国人のチベット人にたいする生々しい拷問の記述がある。これを読んで、まだ中国称賛している日本人、あほなんですか?ってまじ思う。

チベット人が受けた強姦・拷問・人体実験、避妊手術、殺戮、子供誘拐などの数々の証言はアムネスティ、国連の人権委員会などが収集した報告書から紹介されているので、著者の空想で書かれているわけではない。

めまいと吐き気をもよおす拷問の数々の中で、ソナム・ドルカの証言が一番わたしの涙を誘った。もう耐えきれなくて声を出して泣いたほどである。


簡単に言うと、反共活動をしたという罪でソナム(女性)は逮捕され、数々の拷問・レイプを受けて廃人状態になるのだが、療養で一時帰宅が認められている時、亡命を決意。娘を抱えてインドへ亡命を果たす。

彼女も壮絶な人生なのだが、もっと壮絶だったのは父親であった。父親もさんざん中共に嫌がらせを受け、妻を亡くしたこともあって亡命を決意する。家財すべてを売り払って小金をつくり逃走しようとするが、結局2度の亡命に失敗する。

一回目(1992)は中国の警察に、二回目(1995)はネパールの国境警備隊に捕まって送還されてしまうのだ。ネパールはかんぜんに親中国であるので、チベット人密入国者に容赦はない。

父親は2001年仮釈放されたそうだが、その後、娘と再会することができたのかは定かではない。

どこの国がこれほど苛烈に親子の関係を引き裂くことができるのであろう。

侵略し、殺しまくり、強姦しまくり、ありとあらゆる痛みを与えつづけ、日々の生活においてもがなり立てるように中国文化を押し付け、仕事が終わっても集会に強制参加させてスローガンを唱えさせる。中国人への恐怖と嫌悪感から精神崩壊しないほうが無理だ。


チベットのもつ豊富な地下資源

 なぜ中国がチベットを欲しがるのか。本書のメインはこの部分であろう。それはチベットのもつ豊富な地下資源だ。世界一の埋蔵量の可能性をもつリチウムや、銅、鉛、亜鉛などの大鉱床が立て続けに見つかっている。アムドには天然ガス、油田もある。

また水資源についても、中国は森林を切り開き、チベットに巨大なダムをいくつも造って、莫大な水力エネルギーを得ようとしている。当然だが、建設するのも中国企業、労働者も中国人。チベット人にはなんの恩恵もない。

中国を知ろうとする時、従来の中華思想だけで見ると本質を見誤る。結局、資源飢餓国と言われている中国が自国の民を食べさせていく上で、資源国を襲いその富を収奪しているという構図のほうが理解しやすい。世界史を振り返ると、宗教(思想)による戦争などもしかして一つもなかったのではないか。すべては金のためであり、食べるための戦争であり侵略だったのだろう。


④深刻な環境汚染

中国は、自国にはない豊富な資源をもつチベットを搾取しまくっている。しかし、チベット人にとって山とは神々が宿る聖なる場所であり、中国によるやみくもな資源開発、それによる森林の無計画な伐採や環境破壊は耐えられない所業だろう。

もっとも憂慮するのは、各所につくられた核兵器製造所とそれによる核廃棄物の無造作な投機だチベットの核汚染は深刻だ。周辺に住む村人には何年も前から深刻な健康被害が出ている。

アムドの地域では、

「原因不明の死を遂げる人間や動物の数が増え続けている。1987年以降、死亡した家畜の数は急激に増加しており、魚はほとんどその姿を消した。1989年、1990年に、この地域で原因不明の死を迎えたものは50人に達している。1990年の夏に、12人の女性が出産し、胎児すべてが分娩前、または分娩中に死亡。ある30才の女性は、現在まで7回出産を経験したが、すべて死産に終わった」とある。

恐ろしい実態があるにも関わらず、この時も世界は中国と良好な関係でいたいため、ずっと無関心を装っていたのである。


チベットの山々には核兵器がある


もはやチベットはかつてのチベットではない。神々が宿る山は切り裂かれ、各所に核弾頭ミサイルが配備されるている。アムド北部のツァイダム、テルリンカ、チベット自治区内のナクチュ、コンボなど。ラサにはミサイルの地下格納庫もある。

米軍基地が置かれていて、陸海空を占領されている日本もえらそうなことは言えない。日本は、戦後76年経った今も米国に侵略されているのである。国防を自国ですべて全うできない国など主権国家と言えるのだろうか。チベットの惨状を見ていて、日本はなにも学んでいないと思う。

チベットの山々にある核ミサイルはインドを標的にしているという。そのほか、核弾頭を搭載した爆撃機を出撃することが可能な空軍基地がチベットには造られている。現実の世界は、愛でも思想でもなく、「力」が世界を制している。

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⑥最後に
もっと書きたいことはたくさんあるのだが、冗長的になってしまうので止めておく。
終始、一番感じたのは、ダライ・ラマ法王の情けなさである。

中国共産党の極悪非道は言うまでもないが、それはさておき、チベットが蹂躙されていく様を見ていると、ダライ・ラマ法王の「非暴力主義」が事態の悪化に火を注いでいるのが見てとれる。

ペマ・ギャルポ氏は法王を尊敬するチベット人である故、本書では各所で法王の真意を説明し、必死にかばっているのだが、そもそもダライ・ラマの無策無能が中共チベット侵略を一層進ませ、塗炭の苦しみをチベット人に負わせてきたようにしか思えないのだ。

というか、そもそも宗教的権威に、政治的権力を担わせるな!と言いたい。ダライ・ラマも「政治には自分ではない人が関わったほうがよい」と述べているように、彼には負担が大きかったであろう。弱肉強食の世界にあって、国の先頭に立つ大将が、「戦いません!」と宣言するような国ほど恐ろしいことはないのだから。

その意味で、日本は天皇と政治権力が分かれて国護りしてきたことは幸いであったと思う。先人に感謝したい。


1989年ダライ・ラマノーベル平和賞を受賞しているが、世界を牛耳る悪党どもがノーベル賞でもあげてご機嫌とろう。そして中国に歯向かわないでいてもらおうと示し合わせたとしか思えない。彼もどこかでそんな世界と歩調を合わせてきたのだ。

彼がやってきたことは罪深い。
チベットを蹂躙したのは、中共ダライ・ラマといっても過言ではない(すみませんチベットの皆様、個人的な感想なので怒らないでください)。

法王が、「まぁまぁ、中国と仲良くやっていこうや、暴力はいかんよ」と言っている間に、もう70年以上が経っている。チベットでは中国人のほうが人口が圧倒していて、学校では中国語で授業が行われ、服装も中国化し、チベットの僧院はもちろん通うこともできない。チベット文化も民族も何十年にも渡って消し去られてきたのである。時間がないのである。

著者は、こんな法王にいら立ちを隠せない若いチベット人がたくさん育ってきたという。非常にいいことだと思う。不遜なことを言うが、ダライ・ラマ法王が亡くなった時、はじめてチベット人は民族蜂起をして、民族としての祖国奪還に着手できるのではないだろうか。

忘れてはならない。チベットはその昔、唐や英国を圧倒し、けっして彼らに屈服しなかった強国であったのだ。戦い続けて父祖伝来の土地を守り続けてきたということは恥ずかしいことか?間違っていたことなのだろうか?ダライ・ラマが言うように、悪の所業なのだろうか?

いいえ。国を護るために戦うことは正義なのである。

チベットの失敗から、日本は学ばなければならない。
中国はかならず日本を侵略してくるだろうから。